/KERELのご紹介

KOBAYASHI
KOBAYASHI
Altair Employee

近年、複雑な接触などを含む準静解析的問題を、収束しない心配が無い陽解法のRadiossで解くお客様が増えています。

その時のコツについては、弊社福岡により既にまとめられており、滑らかに動かすための/FUNCT_SMOOTH と減衰の/ADYRELが鍵だと思います。  

本来これ以上申し上げることはございません。以下の文は蛇足となります。

 

/KERELのロマン

ところで、/ADYRELをヘルプで確認した方の中には、近くに/KERELと言う機能を見つけた方がいらっしゃるかもしれません。両者とも準静解析時の望まぬ振動を抑えることに使える機能です。ヘルプにも記載がありますが、/KERELは運動エネルギーがピークを迎えると全節点の速度を0にすると言う少し荒っぽくも感じる手法です。会社の見解ではなく、個人の感想ですが、/KERELは、うまくいく時は短時間に振動を抑えることができる反面、変な結果を得ることもある三振orホームランタイプと感じています。/ADYRELはほとんどの問題でうまく働くアベレージヒッタータイプです。

https://2022.help.altair.com/2022/hwsolvers/ja_jp/rad/topics/solvers/rad/kerel_engine_r.htm

公式にお勧めするのは/ADYRELとなるわけですが、/KERELのロマンも捨てがたいです。/KERELがうまく働く事例をご紹介したいと思います。

 

バネおもちゃの浮遊を題材とします

祭りの夜店やレストランのオマケおもちゃとして手に入れることが出来る、バネのおもちゃのことは皆さまご存じと思います。

英語ではどうやらSlinkyと言うようです。階段をビヨンビヨンうまく落とす遊び方が有名だと思いますが、片方をもって伸びた状態から落とすと、重力に逆らって浮遊しているように見える、と言う現象がおこるようです。

家にあった樹脂製のカラースプリングで落下確認したところ、浮いているように感じました。一緒に実験した小学校低学年の子供に何故か聞かれましたが、理解が浅くうまく説明できなかったため、バネの下の方は、上の方が手を離されちゃったことに気が付いてないんだよ、と適当なことを言って事なきを得ました。

理解が浅い私ではありますが、この浮遊感をRadiossの解析で再現するには、バネが初期状態から自重で伸び、テンションのかかった状態から落下させることが必要だろうと何となく理解しました。そして、バネが縮んだ初期状態から自重で伸びていく現象は大きく振動し、解析で再現するには何らかの減衰を付与しないとバネの動きを止めるまでに膨大な計算時間となってしまうことが予想できました。

ここからは、短時間でバネが伸び切った状態で止めることを目指す、と言う地味な話が続きます。

 

減衰無し

まず、適当に作ったバネを上部だけ拘束し、重力のみ付与してみました。右側のグラフは最下部のある節点の高さ方向変位となります。このままではビヨンビヨンし続け、なかなか最終状態へたどり着かないことがわかります。

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Rayleigh Damping

今まで、/ADYRELと/KERELの話しかしてこなかったのに、急にレイリー減衰を出して申し訳ないのですが、/ADYRELや/KERELと異なり、多くの解析ソルバーに搭載されている機能なので、念のために適当に設定し計算しました。他のソルバーと同様にαとβを設定します。

https://help.altair.com/hwsolvers/rad/topics/solvers/rad/theory_static_solution_explicit_time_integration_r.htm#rayleigh_damping

注意点としては、βは使える範囲が狭いことです。βのKに対する減衰は安定限界に影響を与えるためにRadiossではtime stepΔTよりも大きい減衰係数は無視されます。αで1%減衰を与えてもほぼtime stepに影響はありませんが、βで1%減衰をまじめに与えようとするとtime stepが約1/20となってしまうと聞いたことがあります。(βをふっても結果が変わらないことを騒いだ時に聞きました。)

左から、減衰無し、レイリー減衰、最下点変位グラフ(赤がレイリー減衰)となります。

パラメータを自分で決める必要があるため適切な設定をするのが大変です。バネのようにシンプルな問題であれば、学のあるかたは適切なαとβをすぐ設定できるのかもしれませんが、複雑なモデルでは難しい可能性があります。

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ロマンの/KEREL

いよいよお待ちかね、/KERELの登場です。

左から、減衰無し、レイリー減衰、/KEREL、最下点変位グラフ(緑が/KEREL)です。

嘘みたいに/KERELモデルがピタ止まりしていることがわかると思います。

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運動エネルギーを確認してみましょう。減衰無しと/KERELの比較です。

グラフは今までと異なり、運動エネルギーです。最初の運動エネルギーのピークの山でピッタリ止まっていることがわかります。

今回のバネのモデルは単純であるために、/KERELモデルでは最初の山頂以降はフラットになっていますが、実際の複雑なモデルでは、不釣り合いにより変形し、運動エネルギーの次のピークが出てくることもございます。

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/ADYREL

続いて、現在お薦めしている/ADYRELの結果です。以前は/DYRELと言う自分でパラメータを決める必要がある機能だけがあったのですが、ソルバーが自動で決めてくれる/ADYRELの誕生により、一気にお薦めしやすくなりました。

左から、減衰無し、レイリー減衰、/KEREL、/ADYRELになります。HyperViewが横4分割までなので、グラフを割愛しました。

/ADYRELは/KERELほどのビタ止まりはないものの、パラメータなど設定することなく、まずまず早く運動が落ち着いていることがわかります。

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最下点の変位グラフがないと/ADYRELの動きがわかりにくいので/KERELのアニメーションを消してグラフを表示させました。

左から、減衰無し、レイリー減衰、/ADYREL、最下点変位グラフ(ピンクが/ADYREL) です。

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それぞれの減衰の違いのイメージを掴んで頂ければ幸いでございます。

 

/KERELからのバネおもちゃの浮遊

上部拘束、重量の条件 with /KERELで、途中で上部の拘束を外しています。

伸びきった状態から見て頂くと、浮遊しているように見えないでしょうか?

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KEREL_DROP.zipが上図の適当なRadiossサンプルモデルになります。

ただ、基本的には/ADYRELで準静解析を実施頂くことをお薦めします。

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