材料引張試験のくびれ発生後の応力低下データは、材料特性ではなく、形状の特性です。


はじめに

下図のような材料試験データがあるとします。くびれ発生のあと、応力が低下してちぎれてしまう部分ですが、これを、材料特性として、与えるべきなのでしょうか?結論から言うと、これは形状の特性であって、材料特性ではありません。本記事では、この課題を詳しく見ていきたいと思います。

 

材料特性として応力が低下しなくても、くびれ発生後に応力低下する

なんとも矛盾しており、確実に間違っているのですが、事実でもあります。

 

説明するために、実際に次の材料引張試験を行ってみます。

 

試用する材料モデルは、/MAT/LAW2 です。

https://help.altair.com/hwsolvers/rad/topics/solvers/rad/mat_law2_plas_johns_starter_r.htm

 

降伏応力の式はこれです。σ: 降伏応力、εp: 塑性ひずみでであり、a=90MPa, b=223MPa, n=0.368 としています。アルミ相当の材料です。この式の大事なところは、塑性ひずみの増加に対して、応力も必ず増加することです。

law2のイメージ.png

 

エクセルなどで計算していただくと分かりますが、イメージとしてはこのように、ずっと応力が増加し続けます。

 

そして、こちらが結果として得られる、荷重ストローク線図 (FS カーブ) はこちらです。荷重が低下するのが分かると思います。

 

なぜ、荷重が下がってしまうかと言うと、このようにくびれが発生して細くなってしまい、強い荷重を保てなくなるからです。

 

 

もちろんくびれ部の応力は解析中、ずっと増加し続けています。

 

さて、くびれの発生から、荷重の低下までは分かりましたが、なぜ応力の低下と言う話になってしまうのでしょうか?それは、引張試験において、慣習的に、荷重を試験片の元の面積で割ったものを応力と表現しているからです。

これがくびれ発生後に応力が下がると誤解してしまう原因ではないでしょうか。

 

材料試験屋さんから、SS カーブをもらった際には、応力とひずみはどういう定義で求められたものなのか、一度確認するようにするのが良いかもしれません。

 

くびれ発生までは、応力として扱うのは、勝手すぎるのでは?

本節のタイトルのように感じるかもしれません。しかしくびれ発生までは応力として扱っても、絶対とは言いませんが、大丈夫なのです。

 

これを知るために応力3軸場という数値を見てみます。引張方向に 1軸の応力場ができている場合、1/3 になります。くびれ発生直前までは、試験片に幅広くきれいな1軸の応力場ができているのが分かります。

 

そして応力の大きさもきれいに一様になっています。

 

向きが整っていて大きさも同じなので、どの要素をとっても、応力は荷重を面積で割ったものと等しくなります。試験特性と材料特性が一致していると言ってよいでしょう。

 

しかしくびれ発生後は、3軸度も応力分布もバラバラになります。本当に知りたい値は、要素一つ一つに与えるべき、ひずみと応力の関係式ですので、この状態のときの試験機の荷重を元の面積で割った値を材料特性として与えるべきではない、ということがお分かりいただけると思います。

 

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