バルク体混合最適化のための機械学習とシミュレーションの組み合わせ

Naoya Akagawa_20448
Naoya Akagawa_20448
Altair Employee

本記事はCombining Machine Learning and Simulation for Bulk Solids Mixing Optimisationを元に作成されています。

 

1.概要

連続混合は従来のバッチ混合機に比べて効率が良く、バルク固体処理の産業界で多く利用されるようになってきました。しかし、連続混合の複雑なメカニズムは、単に測定するだけでは理解するのが難しく、実験による試行錯誤のプロセス最適化は時間とコストがかかります。したがって,連続混合プロセスの信頼性の確保は難しく、保守費の高騰やプロセスの停止時間などの問題が頻発し、経済的な損失が生じることになります。

 

上記の課題は,バルク挙動シミュレーションと機械学習を組み合わせた最適化計算を用いることで解決できます。これにより、システムのメカニズムに対する前例のない洞察を得ることができ、混合機の設計と運転の迅速かつ費用効果の高い最適化を行えます。

 

本記事では、Altair EDEMにおける高精度の物理ベースのシミュレーション、Altair Unlimitedにおけるハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)、およびAltair Hyper Studyにおける機械学習と自動化を組み合わせた効率的な最適化手法について詳しく説明します。

 

2.方法

2-1.概要

以下に、解析手法の概要を示します。まず、装置のジオメトリをパラメータ化します.次にクラウド上で実験計画法によるサンプルモデルを作成し,離散要素法(DEM)シミュレーションを自動的に実行します.さらに機械学習を使用して結果に対して応答曲面を作成し,応答曲面から遺伝アルゴリズムを用いて最適なパラメータを素早く推定します。これらすべてを、インタラクティブなGUIを持つInspireEDEMHyperStudyで行います。


 

2-2.Altair Inspireによるジオメトリのパラメータ化

混合機の設計の最適化には、Altair Inspireによるジオメトリのパラメータ化が必要です。設計パラメータ空間は、スケッチとジオメトリツールに変数を割り当てることで定義されます. Inspire内の変数マネージャーを使用してパラメータの値を更新し、ミキサーのジオメトリを変更します。このケーススタディのパラメータ空間は、ミキサーシャフトの設計に焦点を当てており,図1に示します。

図1- Inspireのパラメーター

2-3.Altair EDEMによるプロセスモデリングとパラメータ化

Altair EDEMによる連続混合プロセスのシミュレーションは、設計および運用パラメータとプロセス性能を関連付けるために使用されます。図2には、例として連続混合プロセスのEDEMシミュレーションが示されています。運用パラメータ空間は、EDEMモデル内で直接定義されます。一方、特定の設計構成に対するミキサーシャフトのジオメトリはInspireで生成され、サーフェスメッシュとしてEDEMにインポートされます。EDEMでは、質量流量や機器の運動など、さまざまなプロセスパラメータを変化させることが可能ですが、このケースでは、パラメータ空間にはミキサーシャフトの回転速度のみが含まれています。

 

プロセスの性能は、粒子の滞在時間、ミキシングチャンバー内のエネルギー消費、およびEDEMシミュレーションにおける出口の質量流量によって定量化されます.つまり、混合度、エネルギー消費量、およびスループットで測定されます。また、後に行う最適化では、パドルの数による装置のコストも考慮されます。

図2 - EDEMによる混合プロセス 

2-4.Altair HyperStudyによる自動化された実験計画法

最適化では、複数のパラメータ組み合わせに対するシミュレーション結果の生成が必要です。このプロセスは、HyperStudyで自動化されています。EDEM-HyperStudyコネクタを使用することで、EDEM入力ファイルのパラメータ化やシミュレーションケースの自動生成と実行が可能となります。シャフトジオメトリの生成とEDEMへのインポートも、HyperStudyで自動化されています。Inspire APIによる、シンプルなPythonベースのスクリプトにより、シャフト設計パラメータを変化させ、ジオメトリをエクスポートします。したがって、HyperStudyEDEMシミュレーションでプロセスパラメータと設計パラメータの両方を自動的に変化させることができます。

 

HyperStudyの実験計画法は、統計分析やモデル適合に効率的な方法でパラメータ空間をサンプリングするために使用されます。このケースでは、Modified Extensible Lattice SequenceMELS)サンプリングを使用して、表1に示される37ケースのよく分布したサンプルが生成されました。このサンプリング手法は、応答モデルの作成によく用いられます。

表1 - MELS DOEの一部

2-5.Altair Unlimitedによるシミュレーションの実行

EDEMの離散要素法は、現在利用可能な最も高い精度を持つ粉体の挙動をシミュレートする数値計算手法ですが、計算コストが高く、実用的な解析時間とするには高性能なグラフィックスカードが必要になります。Altair Unlimitedは、オンプレミスとクラウドベースのフォーマットの両方で、強力なハードウェアと効率的なジョブ管理を提供することで、この課題に対処する完全なHPCソリューションを提供しています。

 

EDEMのジョブは、図3に示すように、ローカルのHyperStudyインスタンスから直接,リモートのAltair Unlimited HPCノードにEDEM-HyperStudyコネクタを介して送信することができます。手動でのファイル転送やジョブの送信をする必要性はありません。さらに処理後にローカルマシンにダウンロードするファイル、クラスタに保持するファイル、廃棄するファイルを指定することができ、データのストレージと転送の要件を削減することができます。このケーススタディでは、ミキサーのキーパフォーマンスインジケータ(KPI)の表形式データのみがローカルマシン送信され、HyperStudyでまとめられました。

図3 - EDEM-HyperStudyコネクターを経由したAltair Unlimitedへのジョブの送信

 

2-6.Altair HyperStudyによる統計分析、機械学習、および最適化

解析結果が得られたら、統計分析を行うことでパラメータの感度を理解することができます。HyperStudyで統計分析を行うでき、さらに幅広い分析ツールがあります。このケースでは、パラメータの感度を調べるために図4に示すパレート図を使いました。

図4 - 滞留時間と全流量のパレート図

また、機械学習を使用してHyperStudyで解析結果から応答局面を作成できます。このモデルは、変数パラメータに基づいてKPIの値を予測し、追加のシミュレーションを実行する必要がなくなり、時間と計算リソースを節約することができます。HyperStudyでは、幅広い古典的な回帰モデルが利用可能であり、一般化されたメトリックに基づいて最も正確なモデルを自動的に決定するためのFit Automatically Selected by TrainingFAST)メソッドが利用可能です。

 

本ケースでは、FASTメソッドを使用してミキサーのKPIに対するモデルを作成し、その残差解析を図5に示しています。

図5 - HyperStudyによる滞留時間と全流量の残差図

適合された応答モデルは、ミキサーの設計と運用の迅速な最適化に使用することができます。これは、HyperStudyMulti-Objective Genetic AlgorithmMOGAを使用して適応されたモデルに対して操作し、与えられた目的関数セットに対して最適なパラメータ組み合わせを効率的に特定することで実現されます。HyperStudyは数秒で数千の異なるパラメータ組み合わせを評価し、目的関数の競合関係の性質により、パレートフロントの形でトレードオフ曲線を得ることができます(図6)。

図6 - 混合機のKPIのパレートフロント

 

また、加重総和法を適用して単一の最適解に収束することもできます。これには、各目的関数に重みを割り当てて相対的な重要度を決定します。粒子の滞在時間により高い相対重みを割り当てることで得られた混合性能の最適解は、図7で基準となるケースと比較され、シャフトトルクが類似しているが改善された混合性能が示されています。

図7 - ベースラインと改善された混合機の比較

 

3.結論

Altairのポートフォリオは、Altair InspireによるCADジオメトリのパラメータ化、Altair EDEMによる高精度シミュレーション、Altair Unlimitedによる簡単なHPC、およびAltair HyperStudyによる機械学習と最適化を組み合わせることで、粉体処理プロセスの仮想最適化に包括的なソリューションを提供します。これらのツールを組み合わせることにより、粉体処理プロセスの迅速かつ効率的な最適化を実現することができます。

詳細な情報については、ウェビナー「Discrete Element Modellingと機械学習による連続ミキシングプロセスの最適化」をご覧ください。

 

ワークフローの詳細な説明については、Altairツールを使用した「連続パウダーミキサーの最適化方法」のビデオシリーズをご覧ください。

 

このケーススタディの必要なファイルは、こちらから入手できます: GenericMixerOptimisation.zip

 

混合機のドライブトレインをモデル化する方法については、こちらの記事をご覧ください: EDEMMotionSolvePSIMActivateを使用したバルク体混合機のドライブトレインのモデリング