塑性ひずみと、ひずみは、1対1の関係にありません
説明
塑性ひずみの説明をするときに、次の図のような 1軸引っ張り試験結果を用いて説明することが多いため、(全)ひずみが大きくなるほど、塑性ひずみも大きくなる、と思ってしまいがちです。しかしこれは、 1軸引張試験の結果にだけ当てはまることであって、実際の衝突シミュレーション等では全くあてはまりません。
なぜなら、そもそも計算している物理量が別の考え方のものだからです。
ひずみは、もとの形から、どれくらい変化したのかを、プラスマイナスの符号付で表現する物理量です。変化の中身が、弾性ひずみ(力を抜けば元に戻る)のか、塑性ひずみ(永久的な変形)なのかは、考慮していません。どのような内容の変形であれ、大きくなればプラス、小さくなればマイナスで出てきます。
一方、塑性ひずみは、永久的な変形量の累積値です。変形量は、大きくなっても小さくなってもプラスの数値で表現します。その累積値ですから、必ずプラスの値です。
では、次の節で、実際にひずみと塑性ひずみが一致しない簡単な例を挙げてみます。
ひずみと塑性ひずみが一致しない例
次の図のように、鉄板を、無理やり引っ張ってから、無理やり元の大きさまでつぶします。最終的なところを考えると、ひずみは、元の形からの変化ですから 0 です。塑性ひずみは、ほぼ開始直後から、ずっと永久変形させられっぱなしなので、何か大きな数字となるはずです。
では結果を見てみましょう。予想通り、ひずみは 0 に戻り、塑性ひずみは増え続ける結果となりました。
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実際の衝突などにおいても、目に見えない激しい振動が起きますし、物体の形が変わることで、変形の向きなども変わっていくため、このように、ひずみ=塑性ひずみとならないケースは多々あり、むしろ一致する 1軸引張試験の状況の方が稀です。
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