人工知能(AI)を活用したマルチフィジックスアプローチによるソレノイドバルブ解析の高速化

Kosuke_IKEDA
Kosuke_IKEDA
Altair Employee

本記事はLorenzo Moretti による投稿

An AI-Augmented Multiphysics approach to speed up the analysis of a Solenoid Valve

を和訳したものです。

 

概要

この記事では、新しい AI ベースのアプリケーション romAI を使用して、CFDシミュレーションデータから動的な低次元化モデル(Reduced Order Model : ROM)を生成します。ソレノイドバルブ作動を最適化するための1Dシミュレーションにおいて、1回のシミュレーション実行に18時間もかかるCFDを、romAIは十分な精度を保ちながら、その時間を数秒にまで短縮することができます。 

 

ソレノイドバルブとは

ソレノイドバルブ(電磁弁)は、工業用水の制御、洗車機や洗濯機、さらには油圧・空圧システムなど、多くの用途に使用されるシンプルなオン/オフバルブです。ソレノイドバルブは、バルブ本体とソレノイド電磁石の2つの基本的な機能ユニットで構成されています。ソレノイド電磁石を通電または非通電状態とすることで、バルブのオリフィス内の流れを遮断したり開放したりできます。


 

システム最適化のためのマルチフィジックスアプローチ

エンジニアが設計し、シミュレーションで検証する多くの複雑なコンポーネントと比較すると、地味なソレノイドバルブは取るに足らないものに見えるかもしれません。改善の余地がないように見えるものを、なぜ最適化するのでしょうか?

製品エンジニアは、CFDという限られたレンズを通してソレノイドバルブの機能を見ていることがよくあります。バルブの流路を最適化することで、部品を最適化することができます。しかし、信頼性と安全性のためには、バルブの作動も重要な役割を果たします。しかし、作動の問題ははるかに複雑で、磁気、油圧、流体力学、機械工学の相互作用を理解する必要があります。ソレノイドバルブの作動を最適化するためには、すべての力を考慮してシステム全体を最適に設計するためのマルチフィジックスアプローチが必要です。

そのようなケースではAltair Activate®をご利用ください。

Activateは、電磁気学、力学、水力学、流体力学など、あらゆる分野が混合されたモデルを、システム全体の統一されたシミュレーションにまとめることができます。便利なパラメータ設定とシミュレーション制御により、エンジニアは重要な設定、境界条件、サブモデルを視覚化して調整することができます。

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機構

バルブの仕組みはとてもシンプルです。バルブのプランジャーの質量と、スプリングだけで構成されています。磁力、圧力、流体力はそれぞれのドメインモデルで計算し、接続部に加えることができます。

電磁界

電磁石はソレノイドバルブの心臓部であり、実際の調査対象でもありますが、ここでは簡単にしか触れません。電磁界解析にはAltair Flux® を使用しています。ActivateとFluxは緊密に統合されているため、ユーザーは高精度の電磁界連成シミュレーションを行うことができ、またルックアップテーブルやFMU(Functional Mock-up Unit)を活用することで、より迅速なシミュレーションを行うこともできます。

流体

バルブの油圧部分では、流れと力という2つの側面が重要です。力は、静圧だけでなく、局所的に減少する動圧によっても発生します(flow force・流れ力)。このモデルは、油圧コンポーネントとAltair AcuSolve® によるCFDシミュレーションの結果を組み合わせて表現されます。

定常的な流体挙動を表すにはルックアップテーブルが使用されています。定常的な流体挙動はいくつかのプランジャーの位置と異なる流入条件のもと、固定条件でモデル化され、解法されます。それらの定常シミュレーションの結果はルックアップテーブルに転送され、テーブルを参照することで、圧力差やプランジャーの位置に応じた質量流量と力を求めることができます。

さらに、現象をより正確に表現するために、動的な低次元化モデル(ROM)を使用して、ソレノイドバルブの過渡的な流体力学の挙動を表現することもできます。

 

romAIによるCFDの動的な低次元モデル作成

まず、romAIについて説明します。

romAIは、システムモデリングの理論と機械学習を組み合わせた、高速かつ高精度な低次元化モデルを生成するモデリング手法です。

今回のソレノイドバルブのシミュレーションのようなシステム全体の1Dシミュレーションの場合、コンポーネントの挙動を全体システムとの相互作用に置き換えることで、多くのケースにおいて、ソルバーの実行時間を短縮しつつ、十分な精度の結果を得ることができます。

ソレノイドバルブのシミュレーションにromAIを活用することで、バルブのCFD 3DモデルをAltair ActivateのromAIブロックに変えることができます。

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romAIブロックの入出力ポートを接続して、システム全体と連動させることができます。

ここで、CFDの物理演算を行うromAIブロックでは以下を入力とします:

  • プランジャ位置;
  • プランジャ速度;
  • バルブ前後の差圧

出力は以下となります:

  • 流体力 (static hydraulic force + flow force);
  • 流量 (バルブを通過する流量).

romAIモデルの作成は簡単で、次のような手順で行われます:

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1. Altair AcuSolveによる3次元CFD過渡シミュレーションの実行

以下のパラメータの組み合わせにより、4つの異なる条件でCFD過渡シミュレーションを実行しました:

    • 流入圧力を2水準 (2気圧、 4気圧)
    • 開口時間2水準 (10 [ms]、100 [ms])

romAIモデルは、上記パラメータで定義された動作範囲で動作することを前提としています。

また、精度検証のために、以下の条件でCFD過渡シミュレーションを1回実施しました:

    • 流入圧力 3気圧
    • 開口時間 50 [ms]

 

2. 3Dシミュレーションから学習データを抽出

トレーニングデータセットは、1つのcsvファイル(4つのCFDシミュレーションをすべて連結したもの)で構成されており、その1列目は時間ベクトル、他の列はromAIモデルの入力、出力、状態量を表しています。

状態量とは、低次元化モデルのダイナミクスを記述する変数のことです。今回のケースでは、バルブを通過する流量を状態量として設定しました。流量は出力としても使用されています。

入力と出力は先に示した通りです。

 

3. 機械学習モジュールの実行

このステップはromAIのGUI(romAI Director)で行われます:

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ユーザはこのGUIで以下を実施します:

    • 入力、出力、状態量の設定
    • 数学モデルの定義(線形、非線形)
    • トレーニングパラメータの設定
    • romAIモデルのトレーニングの実行

 

4. romAIブロックによるromAIモデルの組み込み

romAIブロックを活用することで、romAIモデルをActivateでシームレスに展開することができます:

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romAIモデルの精度は、追加のCFDシミュレーションから生成されたデータセットを使って評価することができます(流入圧力は3気圧、開口時間は50[ms]の場合):

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5. 1DシミュレーションとしてActivateでROMを使用する

romAIブロックをほかのシステムのブロックと入出力ポートを介して接続するだけです。

ソレノイドバルブのシミュレーションにromAIを適用することで、3Dモデルの精度と1Dモデルのスピードの両方を手に入れることができます。

 

AIを活用したマルチフィジックス解析の結果

AcuSolveとの連成シミュレーションにより、最も正確な結果を得ることができます。しかし、ソレノイドバルブの最適化を行う際に、4コア/8スレッドのPCで1回のシミュレーション実行に18時間も待つ時間があるでしょうか? romAIは、過渡的なプロセスにおいても十分な精度を保ちながら、その時間を数秒にまで短縮することができます。