はじめに
本記事では接着をモデル化するのに便利な /MAT/LAW116 材料を使った 1要素モデルの例題を示します。本材料は、速度依存性がありますが、本例題では、速度依存性は扱いません。もしかしたら、例題その2で扱うかもしれません。
/MAT/LAW117 という LAW116 よりも設定項目の少ない簡単な材料モデルもあるので、そちらも参考にしてください。
材料を扱うときは、線形→塑性→ダメージや破断という順番で扱っていくとわかりやすいと思うので、本例題も 3部構成になっています。
例題はどれも、10x10x1mm のヘキサ要素を 1mm 引っ張り上げる試験となっています。
ちなみに、接着というものについては、セメダイン様のこの記事がわかりやすいと思います。
https://www.cemedine.co.jp/basic/pro/guide/principle.html
あくまでも、接着剤に使われている材料の特性自体は、接着特性の一つでしかありません。
この材料は、接着剤に使われている材料の特性を表すためのものではなく、このように複雑な要因が絡み合ってできている接着という現象を、力学のシミュレーションの中で、それらしく模擬するための特性であることに、ご留意ください。
例題1: 線形特性
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まず、ヘキサ要素は節点の並び方が重要です。最初の4節点で下の面を作って、次の 4節点で上の面を作る並びである必要があります。
HyperMesh で確実にシェルメッシュを上に押し出すようにして作りましょう。
線形特性を入力するのは緑のパラメータです。黄色の場所は、非線形用のパラメータなのですが、非線形領域に入らせないために、とりあえず 1e20 などと大きな数字を入れておきます。
こちらが本例題の設定です。
密度ですが、普通の密度ではなくて、接着面積当たりの質量です。次元は [質量/長さ^2] で、本記事は ton, mm, s 単位系を使っているので 1e-9 ton/mm^2 となっています。これはこの材料は要素の厚みをゼロ (=体積ゼロ) でも使えるようにしてあるためです。
次の弾性係数 E と G も曲者です。次元としては [応力/長さ] です。長さとは要素の伸びです。E=1MPa/mm なら、この要素を上に 1mm伸ばすと 1MPa になりますし、G=1MPa/mm なら、この要素の上面と下面を横に 1mm ずらすと 1MPa 出ます。
この考え方になじめる方は、この段落は読まなくで大丈夫です。私は苦手なので、これはヘキサ要素に見えるけど、実際にはヘキサ 1個につき、バネ1本に置き換わっているとイメージしてます。
例題の中で、私はこのバネは、100N で 1mm 伸びるとしました。このバネは 10x10mm= 100mm^2 の面積を受け持ちますので、応力換算で 100N/100mm^2 = 1MPa です。ですので E=G=1MPa としています。
なお本例題では、横方向のパラメータも厚み方向とまったく同じものにしています。説明がないときがあると思いますが、同じにしたので、省略しているだけです。
1mm の伸びでちょうど 1MPa です。
バネに見立てる考え方に触れましたので、F-S (力-ストローク) 線図も示します。狙い通り 1mm で 100N 出ています。
例題2: 降伏
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ここでは、降伏を表現してみます。最後のダメージによる応力低下は、まだ扱いません。
追加するのは、次の 2パラメータです。引き延ばしと、横ずらしで、それぞれ頭打ちとなる応力を指定します。
本例題では 0.5MPa としました。接着面積 100mm^2 なので、力で言うと 50N です。
FS 線図は次のようになります。狙い通り 50N で頭打ちです。
応力も 0.5MPa で頭打ちです。
例題3: ダメージと破断 (要素削除)
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入力するのはこの 4か所です。
このように、緑で台形全体の面積 (エネルギー/面積) を決めて、青で、降伏の長方形部分の GP との比率を決めます。
私は例によって、バネの考えで次の FS 線図を狙いました。接着面積で割れば、上の図と同じです。
GP = 0.2mm * 50N /100mm^2 = 10e-2 MPa
GCI_ini = (0.2+0.9mm)*50N/2 /100mm^2 = 27.5e-2 MPa
fG1 = GP/GCI_ini = 0.364
となりますので、入力はこうなっています。
狙い通りの FS 線図が得られています。
また、記事の最初のアニメーションをよく見るとわかるのですが、このように、応力=0 (力=0) になるタイミングで要素が削除されます。