はじめに
大変形の非線形静解析が解けない理由は、大きくは2個あると思います。
一つは、接触のある問題で、接触の状況(離れるべきなのか、くっつくべきなのか)が収束しないときで、もう一つは、不安定になっていて、解を見つけることが原理的に不可能になっている場合です。
この記事では、後者についての例題を示します。
不安定というのがどういうことなのかを理解するために、まず、非線形静解析とは、いったい何なのか、その概念をつかむ必要があります。
こちらの図に示したように、非線形静解析とは、与えられた荷重に対して、つり合いの取れる変形を求めるということです。このように、荷重をどれか選んだ時に、変形の可能性が一つしかないのであれば、解けます。
変形の過程を解くのではなくて、つり合いのある状態を求めている、というのがポイントです。過程を考えていませんので、このように、選んだ荷重に対して、複数の可能性が存在してしまうと、解けません。
荷重が頭打ちになる場合もやっぱり同じです。
この不安定な状況は、なんとわずか 1ヘキサ要素で、線形材料 MAT1 を使った場合でも起きるので、それを本例題で示します。
例題
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モデルは非常に単純な 10x10x10mm のヘキサ要素一つだけを用いた引張試験です。
左面に X 方向の拘束をしてあり、図には載せていませんが、Y,Z に飛んでいかないように、そっと余計な応力を生じさせない拘束をしてあります。モデルで SPC カードをご確認ください。
右面に、各節点に 10000N の荷重を入れています。
材料のヤング率 E = 1000MPa, ポアソン比 ν=0.3 です。
引張試験では σ=E に応力がおおよそのくびれの目安です。
くびれが発生すると、同じ力でどれだけでも引っ張ることができる状態になり「はじめに」で述べた、非線形静解析では解けない状況になります。
もちろん要素の応力は上がり続けるのですが、ポアソン効果による断面積の減少をカバーしきれなくなります。つまり、力は面積 x 応力ですので、物体としてみた場合に荷重は上がらなくなるのです。
くびれについては思うところがありまして、ぜひこちらの記事も読んでいただければと思います。
「材料引張試験のくびれ発生後の応力低下データは、材料特性ではなく、形状の特性です。」
くびれという言葉を使っていますが、座屈でも同じです。座屈も概念としては、荷重が一定なまま変形を進めることができてしまう状況ですので、くびれも座屈の一種だと思います(間違っていたらすみません)
このモデルを流してみると、応力がおよそ 1000MPa のところまでは解けますが、
この次のコマを解けません。
まとめ
何やっても解けない。何やっても同じような変形で同じようなタイミングで落ちる。そんなときは、本記事の症状に陥ってるかもしれません。線形材料 MAT1 ですら起きることなので、より応力の上昇が小さくなる弾塑性材料 MATS1 の場合などは、もっと起きやすいでしょう。
それを何とか解くというのも大事なことかもしれませんが、どんなに試行錯誤しても解ける保証はありません。
逆に、そもそも座屈してしまうんだ、そもそもこれ以上の荷重を掛けてよい設計ではないんだ、という認識をした上で、解けなかったという事実自体を活用するのも、一手なのではないかと思います。