AIとシミュレーションの組み合わせによる効率的な粉体混合プロセスの最適化
本記事はStefan Pantaleevによる投稿
Combining AI and simulation for efficient bulk solids handling optimization
を和訳したものです。
1. はじめに
産業プロセスの迅速な仮想最適化はインダストリー4.0パラダイムの中核をなすものですが、そのためには、純粋なシミュレーション主導のアプローチを超えて、機械学習ベースの低次化モデリングを含む計算効率の高い方法論を開発することが必要です。これは、高忠実度シミュレーションの計算コストが大きい工業用粉体材料プロセスなどで特に当てはまります。
本記事では、EDEMによる高忠実度の数値モデリングと、HyperStudy、Activate、romAIによる統計および機械学習手法を組み合わせることで、純粋なシミュレーション駆動アプローチと比べて最適化に必要な計算量を大幅に削減できることを示します。
製薬、食品、化学など幅広い製造プロセスにおいて、基本的な単位操作である粉体混合のケーススタディを通じて、本手法の有効性を実証します。粉体混合システムの試行錯誤的な最適化は、物理的なプロトタイピングによって時間とコストがかかるため、仮想最適化はより費用対効果の高い選択肢となります。
2. 方法論
2.1 概要
提案する方法論の概念図を図1に示します。
EDEMシミュレーションの統計的に効率的なデータセットの自動生成にはAltair HyperStudyを使用し、プロセスの操作パラメータと主要業績評価指標(KPI)を関連付けるシステムの動的低次化モデルの生成にはromAIの機械学習アルゴリズムを活用しました。最後に、Altair Activateの最適化アルゴリズムを用いて低次元化モデルを操作し、最適な操作パラメータ値を迅速に特定しました。
Figure 1 A conceptual representation of the proposed optimization methodology
2.2 Altair EDEMを用いた高忠実度モデル
EDEMは、市場をリードするAltairの離散要素モデリングソフトウェアで、工業用粉体材料プロセスの高忠実度シミュレーションに使用することが可能です。
このケーススタディでは、EDEMを使用して、以下に示す一般的な粉体混合プロセスシミュレーションを行いました。
粉体混合プロセスの力学は複雑であるため、このような高忠実度モデリングは計算コストがかかりますが、操作パラメータをKPIに関連付ける上で不可欠な最初のステップとなります。
今回のケースでは、混合機の操作パラメータは、図2に示すように、回転速度、ねじれ角、システム内の質量の3つです。
Figure 2 Blender operational parameter space
着目するKPIは、式(1)の分離指数SIで表される混合物の均一性の時間発展です。ここでCijは粒子iとjの間の接触回数です。
分離指数SIは混合均一性に反比例し、図3に示すように混合時間と共に減少していくと考えられます。
Figure 3 Example result for the time evolution of the Segregation Index in an EDEM bin blender model
2.3 Altair HyperStudyを用いたトレーニングデータの生成
機械学習を用いた低次化モデルの生成には、操作パラメータを変化させた複数のEDEMシミュレーションを実行したトレーニングデータが必要です。Altairの設計探索ソフトウェアHyperStudyを使用することで、統計的に効率の良い構成でトレーニングデータの生成を実行することができます。
この検討では、HyperStudyの実験計画法(DoE)機能を使用して、表1に示す3因子3水準のタグチメソッドに従ってEDEMシミュレーションのデータセットを生成し、実行しました。この実験計画の数は、完全要因計画のわずか3分の1で十分であり、したがって、実行コストは3倍低くなります。
生成されたデータセットは、次で説明するromAIの低次元モデルの生成に使用されます。
Table 1 EDEM simulation runs in a 3x3 Taguchi DoE
2.4 romAIによるモデルの低次元化
AltairのromAIは、人工知能とシステムモデリング技術を組み合わせて、既存のデータから再利用できる連続な動的モデルを生成する新しいアプリケーションです。
動的なromAIモデルは、動的システムの状態空間表現を構成する計算効率の良いモデルです。システムで注目される応答に関して、低次元化モデル(Reduced Order Models、ROM)と考えることができます。
romAIモデルは、その高い計算効率から、システム設計や最適化の高速化、あるいはリアルタイムアプリケーションや制御アプリケーションにおけるデジタルツインの構成要素として利用することができます。
図4に、今回の検討で使用するromAIモデルの概念図を示します。混合機の操作パラメータを入力とし、分離指数を出力と状態量に設定しています。
Figure 4 A conceptual representation of the romAI dynamic model developed in this work
romAIの大きな特徴は、シンプルで直感的なワークフローであり、Activate上で実行することができます。データ作成ステップでは、csvファイルからデータをインポートし、スムージングアルゴリズムを使用してフィルタリングし、データノイズを低減します。モデル生成ステップでは、モデルパラメータを定義し、提供されたデータでモデルをトレーニングします。
テストデータとして、操作パラメータを設計範囲内でランダムな値にしたEDEMシミュレーションから得られた結果を準備しました。このデータを用いて、romAIモデルの予測精度を評価します。テストシミュレーションのパラメータ値を表2に、また、結果を図5に示します。
Table 2 Operational parameters of the test simulation
Figure 5 Comparison of test simulation result and romAI prediction
シミュレーションとromAIの結果は定量的に非常によく一致し、romAIモデルがトレーニングには使用していない混合機の操作パラメータの組み合わせに対する分離指数の変化を予測できることが示されました。さらに、romAIモデルはトレーニングデータに含まれる時間範囲を超えた分離指標を正確に予測することができることが確認されました。これにより、最終的な混合状態に到達するまでの長い混合時間のシミュレーションが不要となり、さらなる計算コストの削減が期待できます。
romAIモデルを用いて所定の操作パラメータに対する最終的な混合均一性を評価することは、計算効率が高く、次に述べるようにActivateの内蔵オプティマイザーを用いて粉体混合プロセスをほぼリアルタイムに最適化することができます。
2.5 Altair Activateによるパラメータ最適化
Altair Activateは、包括的なシステム・オブ・システムズ・シミュレーションのためのAltair統合プラットフォームです。ブロックベースのモデリング環境により、ユーザーはromAIの動的モデルを含む様々なシステムを簡単に統合し、操作することができます。この検討では、最適な混合機操作パラメータセットを迅速に特定するために、romAIモデルをActivateの勾配差分ベースのオプティマイザーに接続しました。そのワークフローを以下に示します。
合計50のパラメータの組み合わせを数秒で評価し、最終的な混合物の均一性に関する最適な操作を特定します。これは、純粋にEDEMに基づく同等のアプローチと比較して、桁違いの速さです。
最適なパラメータセットに対するモデルの予測値をEDEMシミュレーション結果と比較検証したところ、図6に示すように優れた一致が見られ、アプローチの妥当性が実証されました。
Figure 6 Verification of the optimal parameter set - romAI prediction vs EDEM simulation result
3. まとめ
Altairのツールポートフォリオは、EDEMによる高忠実度モデリングと、HyperStudy、ActivateおよびromAIによる統計および機械学習手法を組み合わせたハイブリッド手法により、粉体処理プロセスの効率的な仮想最適化を可能にします。
この手法を用いることで、純粋なシミュレーションに基づくアプローチと比較して、桁違いの計算コストの削減が可能であることが、粉体混合プロセスのケーススタディで実証されました。
この高い計算効率により、粉体処理プロセスの仮想最適化が、設計と実運用の両面で実用化されています。
各製品の詳細情報は、以下のAltair製品ページをご覧ください。
Altair EDEM – https://www.altairjp.co.jp/edem/
Altair HyperStudy – https://www.altairjp.co.jp/hyperstudy/
Altair Activate - https://www.altairjp.co.jp/activate-applications/
romAI - https://www.altairjp.co.jp/ai-powered-design/