人工知能(AI)を用いたリニアアクチュエータの動的低次元化モデル (Dynamic ROM) の生成
本記事はLivio Marianoによる投稿
romAI: generation of a dynamic Reduced-Order Model (ROM) using AI for linear actuators
を和訳したものです。
概要
この記事では、リニアアクチュエータの効率的で正確な低次元化モデル(Reduced-Order Model, ROM)を生成するために、romAIがどのように役立つかについて説明します。トレーニングデータとして、Altair Fluxを用いた過渡電磁界シミュレーションを数ケース実施しました。この研究では、ルックアップテーブル、romAI、有限要素解析の3種類のモデリングアプローチを比較し、romAIの有効性を示します。
はじめに
ROMは、シミュレーションの実行時間を大幅に短縮し、かつ精度の高い結果を得ることができるモデルです。現在、ROMは多くの分野で広く利用されています。例えば、デジタルツイン、最適化、リアルタイムシミュレータなどです。romAIは、動的または静的なROMを線形または非線形モデルとして作成することができます。
この研究では、リニアアクチュエーターを含む閉じたシステムでの挙動をモデル化します。
ルックアップテーブル、romAI、有限要素モデルという異なるアプローチを、コイルに流れる電流とプランジャーの動き(変位と速度)という観点から比較検討します。下の図は、これら3つのアプローチについて、上から下に向かって順に精度が高くなるように示したものです。
ルックアップテーブルアプローチでは、Fluxの静解析からエクスポートされた静磁場テーブルを使用します。この方法は、静的または準静的なシナリオ(プランジャーの速度が低い)では正確な結果が得られますが、渦電流の影響を考慮していないため、プランジャーが高速で移動する過渡状態では適さない可能性があります。
一方、romAIアプローチは、Fluxの過渡解析から生成され、渦電流による非線形性を考慮するため、過渡的なシナリオに適しています。
Fluxシミュレーションの結果は、最も詳細な出力を提供し、私たちの比較の基準として使用します。
トレーニング用の初期データセット
本研究では、異なる電圧(異なる動作条件)と異なるばね剛性(異なる設計)を入力変数としたときのリニアアクチュエータの挙動を調べます。
非線形のシステムを扱うので、これらの入力変数を少なくとも3段階変化させる必要があります。
下の図は、必要なデータを作成するために行った9回の過渡シミュレーション(×印)を示しています。また、学習領域内外のromAIの汎化性能を検証するために、3つのシミュレーションを追加で行いました(○印)。
各シミュレーションは、トレーニングプロセスで使用することができる数千の有効なトレーニングデータを生成します。9つのシミュレーション結果は、romAIアプリケーションで使用するために同一のcsvファイルに追記します。
このビデオでは、romAIのGUI(romAI Director)を使用して、データを前処理し、非線形の動的なROMを構築し、その精度をコーディングなしで評価する方法を紹介しています。また、生成されたROMをAltair Activateによるシステムシミュレーション環境で簡単に再利用する方法も紹介しています。ROMの入力は、電圧、プランジャーの変位と速度、出力は、コイルに流れる電流とプランジャーに作用する電磁力です。システムの状態量は、コイルに流れる電流としています(出力としても定義しています)。
初回計算結果
トレーニングデータの予測精度
まずは、トレーニングデータの予測精度を確認します。作成したromAIモデルとばねモデルを結合した1Dシミュレーションを実行し、電圧とばね剛性の値を変えて、コイル電流、プランジャーの変位と速度を比較した結果を報告します。青、赤、緑は、それぞれromAI、Flux、ルックアップテーブル(LuT)のアプローチで得られた結果を示しています。
- romAIはルックアップテーブルアプローチよりも優れた結果を提供し、Fluxと非常に近い結果を出力しています
- ROMを用いた各シミュレーションの計算時間は1秒未満です
テストデータの予測精度
次に、テストデータの予測精度を確認します。
- 入力電圧が16V以上の場合は、romAIはよく一般化されています
- romAIは、入力電圧が16V未満の場合に、精度が低下しています。この領域では、ばねによりシステムの応答が大きく変動するため、より良くシステムを推定するには、より多くのデータが必要と考えます
トレーニング用データセットの改善
ROM の一般化能力を向上させるため、初期データセットに 3 つのシミュレーションを追加し、システム応答がより大きく変動する範囲をよりよくカバーすることにしました。
改善後の結果
テストデータの予測精度
改善後のROMを用いて、テストデータの予測精度を確認します。
- 入力電圧が16V以下の場合でも一般化されました。
- これは、トレーニングセットのドメイン内外両方に当てはまります。
まとめ
精度に関する評価
- romAIアプローチにより、電磁界解析Fluxモデルの正確な低次化モデリングが可能となります
- ルックアップテーブルアプローチと比較すると、romAIでは渦電流の影響を考慮することができ、より正確な結果を得ることができます
- 正確な結果を得るためには、システムの応答変動が大きい範囲(入力電圧16V以下)において、学習に用いるシミュレーションの回数を増やすことが重要です
- この手法は、トレーニング領域内外の両方で非常に優れた一般化能力を示しています
シミュレーションの実行時間に関する評価
- romAIのシミュレーション実行時間はルックアップテーブルアプローチと同程度です
- 有限要素アプローチ(Flux)と比較して、romAIアプローチは精度を維持したまま、より高速にシミュレーションを行うことができます。アクチュエータが同じであれば、様々なシステム構成のシミュレーションに必要な時間を大幅に短縮することが可能です
使用製品:Altair Activate, Altair Flux, romAI, AIによる設計