AIを活用した車室内空調の快適性向上
概要
本記事では、3DCFDのAcuSolveを用いた熱流体解析とromAIによる低次元化により、車室内の温度を高速に予測する手法を紹介します。
本記事はUrvi Mehtaによる投稿
Improving Passenger Thermal Comfort using AI
を和訳したものです。
はじめに
進化し続けるテクノロジーと産業界において、デジタルツインという概念は、物理的な物体やシステムに対する認識や関わり方に革命をもたらし、変革をもたらす力として台頭してきました。デジタルツインとは、対象物やシステムのライフサイクル全体をカバーするコンピュータ化されたモデルのことです。常に更新されるリアルタイムのデータを活用し、シミュレーション、機械学習、推論アルゴリズムを統合して意思決定をサポートします。シミュレーション、デジタルツイン技術、リアルタイムデータをいかに活用して実世界の状況を反映させるかという問題は、単に関連性があるだけでなく、産業とテクノロジーの未来を形作る最前線にあるのです。
この記事では、AcuSolveの数値流体力学(CFD)結果を使用した自動車キャビンの空調予測の例を紹介します。CFD結果は、romAIを使用して作成された低次元化モデル・Reduced Order Models(ROM)を使用して、1DのTwin Activateモデルに統合されます。Twin ActivateのHVACモデルは、車室内の温度履歴、相対湿度(パーセンテージ)、電力消費量(kWh)を予測することを目的としています。
問題設定
このプロジェクトの目的は、romAIが自動車キャビンの3次元CFDモデルを1次元HVACシステムモデルに統合できることを実証することです。この統合は、詳細なシミュレーションデータとHVAC設計および最適化プロセスの効率的なモデリング技術を組み合わせることを目的としています。
- romAIを使って車室内の温度履歴を予測できますか?
romAIモデルはCFDモデルとともに、物理現象の部分的なデジタルツインを構成します。romAIモデルはシミュレーションを利用して、リアルタイム準拠の低次元化モデル (ROM)を構築し、入力された流入速度と温度を受け取り、キャビン内の4点における温度履歴を予測します。
キャビンモデル
CFD用のキャビンモデルを以下に示します。
Side View
Top View
Bottom View
ワークフロー
- AcuSolveを使用し、流入速度と温度の値を入力としてキャビンのCFDシミュレーションを行います
- 必要な点の温度履歴を出力します
- romAIを使用して低次元化モデル(ROM)を作成するために温度データを使用する
- 新しいケースに対してROMをテストし、CFDで生成したプロット比較します
- 1次元システムモデルにROMを配置します
CFDシミュレーション
- メッシュの作成とシミュレーション・パラメータの設定にはSimLabを使用しました
- ソルバーにはAcuSolveを使用しました
- 入力パラメータは以下の通りです
- 流入速度 (V, m/s)
- 流入温度 (T, K)
- 出力 4か所の温度
境界条件
- Inlet - 速度と温度
- Outlet - ゲージ圧 0Pa
- 壁 - 熱伝達率20W/m²K、基準温度293.15K
Inlet位置
Outlet位置
解析条件
- 非圧縮流れ
- 定常ケース:1e10秒を初期増分とする100ステップ
- 過渡ケース: 初期増分は10秒(Spalart-Allmaras乱流モデル)
- 出力点として乗員位置の頭部と足元に該当する4か所の温度を指定しました
解析タイプ
定常解析と過渡解析を組み合わせて実行しました
- 定常解析で、一定条件下での流れの挙動を把握し、過渡シミュレーションの初期条件として使用します
- 過渡解析は熱解析に使用し、機内の温度履歴を求めます
romAIによる低次元化モデルの作成
CFDのシミュレーション結果を元にromAIで低次元化モデルを作成します。
トレーニングデータ
CFDのシミュレーションケースは、3つの異なる流入速度で構成しました
- 1ケースにつき、流入温度を3段階に変化
- 各温度に対して200時間ステップ
romAIのセットアップ
静的ROMと動的ROMを組み合わせました
- 動的ROMで流入速度と流入温度から、Node1とNode4の温度履歴を予測します
- 静的ROMで流入速度と流入温度およびNode1とNode4の温度から、Node2とNode3の温度を予測します
動的ROM
- 入力:流入速度、流入温度
- 出力:Node1とNode4の温度
- 状態量:Node1とNode4の温度
- ニューラルネット:[40 40]
- 活性化関数:tanh
静的ROM
- 入力:流入速度、流入温度、Node1とNode4の温度
- 出力:Node2とNode3の温度
- 状態量:なし
- ニューラルネット:[60 60]
- 活性化関数:relu
両ROMを組み合わせ、以下のような接続で流入速度、流入温度からNode1,2,3,4の温度履歴を予測します
ROMの精度確認
以下、5ケースに対し、CFDで再計算を行い、romAIによる予測値と比較しました
5ケースとも1%以下の誤差で予測でき、計算時間も12hから秒に短縮されました
Case1
流入速度:7.298 m/s
流入温度:283 K
Case2
流入速度:7.697 m/s
流入温度:283 K
Case3
流入速度:7.875 m/s
流入温度:283 K
Case4
流入速度:5.604 m/s
流入温度:283 K
Case5
流入速度:5.5 -> 8.0 -> 6.0 m/s
流入温度:283 -> 288 -> 285 K
HVACモデルへの組み込み
ROMをTwin Activateの「HVAC」モデルに統合し、エアコンの設定温度に対する応答性、湿度、消費電力を計算します
まとめ
- romAIとAcuSolveを使用し、3D CFDモデルを1Dシステムモデルに統合することで、車室内の高精度な熱解析が可能になりました
- romAIのセットアップでは、動的ROMと静的ROMの両方を組み込み、4箇所の節点温度を使用した包括的なモデリングを行いました
- 3つの異なる CFD ケースで流量と入口温度を系統的に変化させたトレーニングデータセットを使用することで、romAIの予測精度が向上すると同時に、シミュレーションの所要時間を最小限に抑えることができました
- AcuSolveの各シミュレーションには約 12 時間を要しました。このように流入温度と流入流速を系統的に変化させることで、romAIモデルのデータ収集に必要な時間を大幅に短縮することができました
- テストデータセットは、様々なパラメー タ範囲にわたってCFD結果を再現するromAIの精度を評価し、性能と一般化能力に関する洞察を提供しました
- この手法では、詳細な3次元CFDシミュレーションの精度とROMの効率性を組み合わせることで、精度を維持しながら計算コストを削減することができます
- 流入パラメー タの変動や過渡的な影響を取り入れることで、モデルの現実性を高め、実際のシナリオとの関連性を高めることができます
- ROMモデルをFMU(Functional Mock-up Unit)としてエクスポートできるため、さまざまなシミュレーション環境に統合することができ、有用性が向上します
- この手法は、熱的な快適性評価とエネルギー効率のために、自動車HVACシステムを最適化するエンジニアや研究者にとって貴重なツールとなり得ます
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