速度依存性のない塑性材料 (要はプラスチック材料) の説明


始めに

プラスチック用の材料で、もっとも定義が簡単なのは 3直線で近似する、下図のタイプです (v2022.3 のドキュメントの 221 ページ)。

 

 

しかし、プラスチックの特徴を 3線で記すのは少し乱暴ではないかと思うのであれば、Rate-independent Plasticity (v2022.3 のマニュアル 251 ページ) を利用して、もっと滑らかな応力ひずみカーブを定義することもできます。

 

 

 

 

数式はマニュアルに記載されています。本記事では数式の意味を示すのではなく、各パラメータによってどのような変化が生じるのか、どのような意味があるのか、といったところを検証しながら説明します。

 

各パラメータの説明

検証モデルについて

材料の検証は次のように Single Sclale モデル (要は単一材料) で行います。

 

線形特性は、次のように E=2000MPa, ν=0.33 としています。

 

σy, σ1 (基本パラメータ):

とりあえず、何か動かしてみるのが良いので、次の設定で引張試験をしてみます。

 

すると結果はこのようになります。σy が初期降伏応力、σ1 が最大応力となっているのが分かります。ただし設定によってはσ1 を超えることもあるので、σ1 が最大応力なのはとりあえずとします。

 

 

δ (基本パラメータ):

δ を 100 と 10 として、引張試験の結果を比べてみます。

 

結果はこのように δ が大きい方が、最大応力までの到達が早いことが分かります。つまり δ は最大応力までの到達しやすさを示すパラメータとなります。

 

とりあえず、σy, σ1, δ を決めれば、応力ひずみの基本的な形が決まるので、基本パラメータと記述しました。一方、ここから先のパラメータは、使わなくてはならないものではありません。

 

H:

この条件で H=0 と H=1000 の比較をしてみます。

 

H=1000 の時は、最大応力σ1 を超えて応力が増加しつづけます。実は、最大応力超過後の傾きが H です。σ1 について、その応力を超えることがある、と述べたのは、このような理由からです。

 

とりあえずσy, σ1, δ で材料を決めたい場合は H=0 としておきます。

 

θ:

等方硬化、移動硬化を示すものです。θ=1 で等方硬化、θ=0 で移動硬化です。現象を見ながら説明する方が簡単なので、次の条件で θ=0, 1 の比較をしてみましょう。

 

 

硬化の違いは、一方行に引っ張るだけでは出てこないので、次のように、引張った後、元の長さまで押し戻します。

 

θ=1 の等方硬化では、このようになります。引張で生じた降伏応力の拡大が、圧縮側にも適用されます。どこかで降伏応力拡大したら、どの方向にも同じだけ拡大する、ということで等方硬化です。

 

θ=0 の移動硬化はこうなります。移動硬化だと、降伏しても、弾性領域が増えるのではなく、その方向にずれるだけという考え方です。何度もくにくに曲げているとぽきっと折れる、バウシンガー効果などと呼ばれる現象は、効果で表現できます。

 

また θ は 0 か 1 かのどちらかではなくて、0~1 の中間的な値とすることもできます。

 

とりあえず、多くのソルバーにおける弾塑性材料のデフォルトの挙動が等方硬化となっているので、 分からなければ θ=1 でよいでしょう。

 

β1, β2:

β1, β2 は体積ひずみで、降伏応力を増減させる係数です。β1 は体積ひずみに線形、β2 は 2次で効いてきます。引張と圧縮で、降伏応力を変化させたい場合に使います。上級者向けの機能で、良くわからなければどちらも 0 で良いでしょう。

 

この材料で、引張試験と圧縮試験をしてみます。

 

このように、何もしなければ最大降伏応力σ1 = 70MPa となるところ、引張で降伏応力が下がり、圧縮で上がる結果となります。

 

εp1, εp2(使わない方が無難):

εp1 が応力低下を開始する塑性ひずみ、塑性ひずみεp2 到達で応力ゼロとなります。

次の設定で引張試験してみます。

 

応力ひずみは次のようになります。

 

横軸を塑性ひずみにするとこうなります。このように(ほぼ)指定通りの結果となります。

 

ただし、この応力低下が、材料特性として入れるべきものなんかと言うのは疑問があります。ダンベル試験において、仮に、材料が右肩上がりに増加するものであっても、くびれの発生により、荷重の低下は起こります。それは部品の形状、幾何学特性によるものであって、材料特性ではありません。材料ダンベル試験で応力低下(本当は応力など測定できないので、荷重の低下なのですが)したからと言って、そのまま材料特性に与えてしまうのは危険です。

 

まずはεp0=100, εp1=200 くらいの大きな値にして、実質何もさせない状態とするのが良いでしょう。

 

w:

材料特性としては何もしないので、デフォルト値 w=1 のまま触らないでください。

 

データダウンロード

この状態の .mic ファイルです。

 

ダウンロード: plasticity.mic